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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)3184号 判決 1956年4月05日

原告 株式会社穂高工業所

被告 西山自動車工業株式会社

主文

被告は原告に対し金百三十一万円及び之に対する昭和三十年九月七日以降右支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払うことを命ずる。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において担保として金四十万円又は之に相当する有価証券を供託するときは仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、被告は訴外大阪ゼツト工業株式会社宛に(一)、昭和三十年三月十二日金額六十二万円、満期日同年六月二十九日、支払地及び振出地札幌市、支払場所株式会社北海道拓植銀行本店と定めた約束手形一通を、(二)、同年四月二十四日金額十五万円、満期日同年七月二日その他の要件前同様と定めた約束手形一通を、(三)、同年四月二十四日金額九万円、その他の要件前同様と定めた約束手形一通を、(四)、同年五月二十一日金額二十万円満期日同年七月三十日その他の要件前同様と定めた約束手形一通を、(五)、同年五月二十一日金額十万円、満期日同年八月三十日その他の要件前同様と定めた約束手形一通を、(六)、同年五月二十一日金額その他の要件前同様と定めた約束手形一通を、(七)、同年同月三十日金額五万円、その他の要件前同様と定めた約束手形一通をそれぞれ振出し、原告は右訴外会社から右各手形の裏書譲渡を受けて之が所持人となつた。よつて原告は被告に対し右手形金合計金百三十一万円及び之に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和三十年九月七日以降右支払済に至るまで年六分の割合による遅延損害金を求めるため本訴に及んだと述べ、被告の抗弁事実を否認した。

被告訴訟代理人は本案前の主張として本件を札幌地方裁判所に移送するとの裁判を求め、その理由として、被告の住所及び本件手形の支払地はいずれも札幌市であるのみならず原告は昭和三十年七月頃本件手形債権保全のため札幌市所在の被告会社内の商品を仮差押中であつて本件が当庁で審理されるとすれば被告は著しい損害を蒙ると共に訴訟の著しい遅滞を免れないから本件は民事訴訟法第三十一条により他の管轄裁判所である札幌地方裁判所に移送されるべきであると述べ、本案に付原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、原告主張事実はすべて之を認めるが、本件手形は被告が訴外大阪ゼツト工業株式会社に対する単車ゼツト号の買受代金支払確保のため振出したものであるところ同訴外会社は右ゼツト号を被告に引渡さないから被告は同訴外会社に対し本件手形金の支払義務なきこと勿論であつて原告はこの間の事情を知りながら本件手形を取得したものである。従つて原告は悪意の所持人であるから被告は本件手形金の支払義務はないと述べた。

理由

被告は本案前の主張として本件が当庁において審理されるとすれば著しい損害を蒙ると共に訴訟の著しい遅滞を生ずるから本件は札幌地方裁判所に移送されるべきである旨主張するので先ずこの点に付判断するに、本件は本来当庁の管轄に属しないものを原告が民事訴訟法第二十一条により分離前の相被告大阪ゼツト工業株式会社に対する請求(本来当庁の管轄に属する)と併合して当庁に訴を提起したものであること記録上明かであり、斯様に法が数個の請求のうちの一つに管轄権を有する裁判所に他の請求をも併合して訴を提起し得る選択権を原告に与えた建前からすれば原告がその選択権を行使して自己に有利な裁判所に訴を提起した場合被告が訴訟遂行上或程度の不利益を蒙ることは蓋し已むを得ないものと謂うべく、唯かゝる場合被告が著しい損害即ち通常受けるよりもより大なる損害を蒙るときは当事者間の公平を期するため訴訟を他の管轄裁判所に移送し得ることにしたのが民事訴訟法第三十一条の法意であると解すべきであるところ、本件について之をみるに被告の住所及び本件手形の支払地が札幌市であること及び原告が本件手形債権保全のため札幌市所在の被告会社内の商品を仮差押中であることのみを以て直ちに被告が通常受けるよりも大なる損害を蒙るものとは認め難く、他に被告が著しい損害を蒙ると認むべき証拠は何等存しない。

次に本件においては被告は未だ証人申請を為さないが若し証人申請をするとすれば本件事案よりしてその証人の一部は札幌方面に住所を有することが予想され本件が当庁において審理を続行されるとすればその証拠調は嘱託の方法によることになるであろうからこの面から本件が或程度遅延することは免れないところであるが、その遅延は法が嘱託訊問の制度を認めている趣旨から云つても已むを得ないことであつて未だ民事訴訟法第三十一条に所謂著しい遅滞とは解し難く、他に本件を著しく遅滞せしめると認むべき格別の証拠は存しない。されば被告の右移送の申立は理由がないから之を却下すべきである。

そこで進んで本案に付判断するに、原告主張事実はすべて被告の争わないところであり、而も被告はその抗弁事実に付何等の立証をも為さないから被告は原告に対し本件手形金合計金百三十一万円及び之に対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明かな昭和三十年九月七日以降右支払済に至るまで年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務あること明かである。

よつて原告の本訴請求は正当として之を認容すべく、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言に付同法第百九十六条をそれぞれ適用して主文の通り判決する。

(裁判官 藤城虎雄 松浦豊久 角敬)

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